【運営者向け】就労継続支援A型事業とは?知っておきたい基礎知識

2022.01.27 #就労継続支援A型


障害特性などによって一般企業で働くことが難しい障害者にとって、就労継続支援A型は「働きたい!」という願いを叶える大切な場所です。そのニーズに応えるように、就労継続支援の開業が年々増加しています。

そこで今回は、開業者が知っておきたい「就労継続支援A型の基礎知識」を紹介。収益モデルや、事業者から見たA型のメリット・デメリットも合わせて解説します。就労継続支援の開業を検討している・興味があるという方は、ぜひ参考にしてみてください。

また、就労継続支援B型や就労移行支援との違いについて知りたい方は、こちらのコラムをぜひご覧ください。

【A型とB型の違い】就労継続支援事業とは?~就労移行支援・定着支援も網羅~

就労継続支援A型とは?押さえておきたい4つの基礎知識

就労継続支援A型とは、雇用契約を結んだ上で、生産活動を通して就労に必要な知識や技術の獲得を支援する事業です。同じく就労継続支援であるB型とは、利用対象となる方や仕事の内容など、さまざまな点で異なります。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

利用対象となる方は?

就労継続支援A型の対象者は、一般企業への就職が難しい、あるいは不安がある65歳未満の障害者です。ただし、所定の手続きを踏むことで、65歳以上でも「最大1年間の継続利用」が可能。

また、特別支援学校の卒業後に行った就職活動で雇用に結びつかなかった方や、過去に就労経験があるものの、現在は雇用関係の状態にない人も対象となっています。いずれの方も、障害者手帳の保有、障害支援区分の取得は必須ではありません。

例えば、知的障害を持った方がコミュニケーションの課題から前職を退職後、再就職に向けて就労継続支援A型を利用しながら、課題の解決を図るケースがあります。

仕事の内容は?

就労継続支援A型の仕事内容は清掃業が最も多く、販売業や製造業、オフィス業など多岐に渡ります。具体的な仕事内容は、次のとおりです。

・公共施設や企業、ホテルなどの清掃

・レストランやカフェなどの接客や調理

・店舗での販売や品出し

・パソコン業務(データ入力、ホームページ更新など)

・部品選定や加工などの工場作業

・農作業(パック詰め、出荷など)

・梱包作業

就労継続支援B型よりもさらに踏み込んだ仕事内容であることが多く、勤務時間も比較的長め。その分、雇用契約により各種保険が適用され、安心して利用し続けることができます。

平均工賃(給料)はいくら?

令和2年度における就労継続支援A型の平均工賃(給料)は、次のとおりです。

平均工賃 施設数 令和元年度(参考)
月額 時間額 月額 時間額
就労継続支援A型

(対前年比)

79,625円

(100.8%)

899円

(101.4%)

3,757か所 78,975円 887円

前年度にくらべ、平均工賃は月額・時間額ともに若干上昇しています。実際の額は事業所によって異なりますが、いずれも地域の最低額以上は保障されています。

利用負担額はいくら?

就労継続支援A型をはじめとした障害福祉サービスでは、所得に応じた負担上限月額が4区分定められています。具体的な利用負担額の上限は、次のとおりです。

区分 世帯の収入状況 負担上限月額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯※1 0円
一般1 市町村民税非課税世帯

(所得割16万円未満)※2

9,300円
一般2 上記以外 37,200円

※1:3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象

※2:収入が概ね600万円以下の世帯が対象

また、入所施設利用者(20歳以上)やグループホーム利用者が市町村民税課税世帯の場合は「一般2」が適用

表に記載した負担上限月額は、ひと月に利用したサービス量にかかわらず、それ以上の負担は生じません。具体的な利用料については自治体によって異なる場合があるため、詳しく知りたい方は事前に管轄の行政庁へ問い合わせましょう。

就労継続支援A型の収益モデル

就労継続支援A型の基本報酬は、令和3年度の報酬改定で大幅な変更がありました。これまで「1日の平均労働時間」に応じて報酬を算定していたところを、「生産活動」や「多様な働き方」など5つの観点から成る評価の総合得点から、単位数が決定されることになったのです。

では実際に就労継続支援A型を開業した場合、どのくらいの収益を得られるでしょうか。ここでは、20名定員の事業所を例にシミュレーションしたものを見ていきましょう。

入金額の計算

シミュレーションする事業所の設定は、次のとおりです。

・定員20名

・月23日(週休2日、100%稼働)

・人員配置 7.5:1

・基本報酬スコア 110点(105点以上130点未満で655単位/日)

・地域単価 10円

・作業収益 190万円

【基本報酬】

利用者数×稼働日数×基本報酬×地域単価+作業収益

 =20×23×655×10+950,000

 =3,963,000円

ただし、実際は稼働率が8割ほどの事業所が少なくありません。8割稼働とすると、入金額は「3,170,400円」となります。

支出額の計算

シミュレーションする事業所の利用者数・人員配置の割合から、支出額は次のように算出されます。

【職業指導員と生活支援員の必要人数】

利用者数÷人員配置基準=20÷7.5≒2.7人

【人件費の計算】

・管理者(サビ管兼務) 300,000円

・職業指導員 常勤1名  200,000円

・職業指導員 非常勤0.9人 150,000円

・生活支援員 非常勤0.8人 160,000円

・利用者 20名×8万円=1,600,000円

合計 1,150,000円

【その他経費の計算】

・建物賃料 200,000円

・水光熱費 50,000円

・通信費 50,000円

・その他 200,000円

合計 500,000円

つまり、支出額は合計で「1,650,000円」。入金額と合わせて考えると、月の収益は「1,520,400円」となります。ただし、あくまでも試算のため、実際はこの限りではありません。

就労継続支援A型の利用者と運営者の関係

就労継続支援の開業を考えている方の中には、A型とB型のどちらを開業した方が良いか、迷う方も多いのではないでしょうか。そこで今度は、利用者と運営者側から見た就労継続支援A型のメリット・デメリットを紹介します。

メリット・デメリットを把握した上で、就労継続支援A型の開業を再検討してみてください。

利用者側から見た就労継続支援A型

就労継続支援A型は雇用契約を結ぶため、利用者にとっては収入が安定するメリットがあります。各種保険も適用されるため、安心して自己の能力アップを図れるでしょう。

逆に言うと、その分仕事に対する責任やプレッシャーが生じます。一般企業まではいかなくても、それなりに長い勤務時間に耐えうる体力・精神力も必要です。

運営者側から見た就労継続支援A型

就労継続支援A型の利用者は作業能力が比較的高いため、施設外就労でも売上アップに貢献してくれます。また、雇用助成金も利用でき、B型よりも事業の収益性が高い点がメリットです。

ただし、雇用契約を結ぶことで、雇用保険や健康保険などの整備が必要だったり、人件費などのコストが増えたりするデメリットも。A型は最低賃金以上の給与を支払うため、収益事業を営むビジネス的観点も求められます。

さらに、スタッフもなかなか確保しづらく、採用に手間取る可能性も高いでしょう。就労継続支援A型に必要なスタッフ数や採用については、こちらのコラムをぜひ参考にしてみてください。

【A型】就労継続支援A型の人員配置基準と最適な人材採用の対応方法

就労継続支援A型の開業は年々増加していますが、安定的な運営のためには相応の工夫と経営努力が必要です。今回紹介した基礎知識をしっかりと理解して、スムーズな開業と運営を目指しましょう。

また、就労継続支援B型や就労移行支援との違いを踏まえて開業する事業を決めたい方は、こちらのコラムをぜひご覧ください。

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