【意外と多い失敗例】障害者グループホーム経営の落とし穴と改善策
2023.06.22 #開業#開業・運営ノウハウ公開東京商工リサーチによると、2020年の「障害者福祉事業」の休廃業・解散は127件。このデータからは詳しい事業内容を知ることはできませんが、倒産した事業はすべて従業員10名未満の事業規模であるため、障害者グループホームが数件入っていることが推測されます。
新規参入が急増している障害者グループホームですが、しっかりと準備しないことには休廃業の危機に陥りかねません。
そこで今回は障害者グループホーム経営の落とし穴や、経営改善策などを紹介します。
この記事の目次
障害者グループホームとは
障害者グループホームとは、身体・知的・精神障害のある方が自立して生活できるように支援する障害福祉サービス。サービス内容の違いによって、「介護サービス包括型」「外部サービス利用型」「日中サービス利用型」の3つがあります。
障害者グループホームとはどういうところなのか、さらに詳しく知りたい方はこちらのコラムも参考にしてみてください。
【運営者向け】障害者グループホームとは?知っておきたい基礎知識
障害者グループホーム経営の落とし穴
早速ですが、障害者グループホーム経営の落とし穴は、どんなところにあるのでしょうか?ここでは、開業段階と経営段階での失敗例を紹介します。
開業段階での失敗例~開業までたどり着かない事業者の特徴~
開業段階の失敗例は、大きく分けると次の4つです。それぞれ見ていきましょう。
開業者の意識・能力が不足している
障害者グループホームの開業にあたっては、事業のビジョンやコンセプト設計に始まり、人材確保や支援の質の向上などを常に考えて行動していく必要があります。しかし、開業者が得意なことしかやらないとなると、他の動きがとどこおり、開業にこぎつけない場合も少なくありません。
また、障害者グループホームの開業には障害者総合支援法の他、消防法や建築基準法、労働基準法などの法令が関係していきます。これら法令・ルールや申請手続きを読み解く気がない・理解する能力がないと、開業準備は一向に進まなくなることでしょう。
マーケット調査ができていない
障害者グループホームを開業する際には、開業予定地とその周辺についてのマーケット調査が不可欠です。例えば、利用者の通所先や他のグループホームとの兼ね合い、公共交通機関やスーパー・コンビニなどの利便性などを調査し、開業地を選定します。
しかし、このような調査をせずに開業してしまうと、「数か月経っても、利用者が集まらない」ということになりかねません。
採用できない
障害者グループホームの指定基準に定められている人員を確保できないと、そもそも指定申請が通らず開業できません。また、「身内や知り合いの人が関わってくれるから」と求人広告をあまり出さない例もありますが、親密度が高いからこそ事業ビジョンに沿った行動を促しにくく、厳しく言えないというデメリットも。
さらに、福祉業界独特の採用手法を知らなかったり、求人広告における自社紹介や求める人材などの文章が下手であったりすると、なかなか上手く採用できないでしょう。人材紹介・斡旋に頼る方法もありますが、結果的に良い人材に巡り合うことは少ないです。
開業支援業者とのトラブル
開業準備の際、行政書士やコンサルティング、フランチャイズなど、開業支援業者を利用する方が多いことでしょう。しかし、次のようなトラブルで指定申請ができなかったというケースがあります。
・開業支援業者の知識不足や事業主へのフォロー不足
・開業支援事業者に依頼したが、事業主自身の問題あり
このような状況になった原因としては、「安易な考えで開業に乗り出してしまった」「両業者間の契約や連携が上手くできていなかった」ということが考えられます。障害者グループホームの開業準備では、開業支援業者はもちろん、開業者自身の能力も問われるのです。
経営段階での失敗例~赤字経営、指定取り消しになるグループホームの特徴~
無事に障害者グループホームを開業できたとしても、経営段階で失敗してしまう開業者も少なくありません。下記の表は、独立行政法人・福祉医療機構(WAM)による「2018年度の障害者グループホーム経営状況」です。
人員配置 | |||
4:1施設 | 5:1施設 | 6:1施設 | |
対象事業者数 | 668 | 384 | 220 |
利用率(%) | 85.8 | 86.5 | 87.8 |
利用者1人1日当たりの
サービス活動収益(円) |
9,913 | 7,798 | 6,897 |
人件費率(%)
黒字施設/赤字施設 |
59.7 / 77.5 | 55.9 / 75.4 | 54.7 / 76.0 |
赤字施設の割合(%) | 33.1 | 34.2 | 41.4 |
※開業後1年以上を経過した1,639施設が対象
この表を見るとわかるとおり、施設形態によっては3件中1件の割合で赤字経営に陥っています。また、中には赤字経営だけでなく、指定取り消しになり、廃業してしまう事業所も。
このような経営段階の失敗の原因には、大きく分けると次の8つがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
推進者がいない
障害者グループホームは、開業すると24時間365日のフル稼働。スタッフが何らかの理由で不在になったり、現場で緊急事態が起きたりすると欠員が出てしまいます。
そのため、継続的な営業で人員を確保し、事業を動かしていく「推進者」が必要です。推進者は管理者やサビ管が兼務したり、事業責任者を別途採用したりする必要があります。
つまり、推進者が不在で、管理者やサビ管などを形式に沿って集めるだけでは、実際に開業した後に事業が回らず、廃業の危機に陥ってしまう可能性が高くなります。
営業ができていない
「営業しているのに、なかなか利用者が集まらない…」というお悩みを聞くことがあります。そのような方に知ってほしいのは、「営業をしている」と「営業ができている」とでは大きな違いがあるということです。
例えば、就労支援事業所など、障害者グループホームの営業先としては優先順位が低い場所にばかり行っているケースがあります。また、営業の際に使用するパンフレットやチラシが文字だらけで、ホームの魅力を伝えきれていないケースも。
また、訪問したことで関係性が構築されたと勘違いして、単に利用相談を待つ受け身な姿勢も問題です。地域部会へ参加せずに地域住民との信頼関係を築けていなかったり、SNSの活用に消極的で新規利用者へのアプローチが少なかったりすることも、営業ができていないグループホームの特徴といえるでしょう。
有資格者・業界経験者が不足している
先程紹介した「採用できない」と関連しますが、福祉業界は有資格者や経験者の採用も非常に難しい業界です。指定申請時には採用できていたものの、オープンまでの間に退職してしまい、開業時に有資格者不在というケースも。
職種によっては加算の減算にも繋がり、開業後の収益に大きく響くことにもなるでしょう。
人件費の見積もりが甘かった
人件費は実務経験や有資格者の割合によっても変わるため、一様に比較できるものではありません。しかし、提供できるサービスや有資格者割合などは、開業時に入念な検討を重ねるため、開業後の大きな方向転換は少ないといえます。
そのため、人件費が経営を圧迫している場合、次のような原因が考えられるでしょう。
・サービス活動収益の見込みが甘い
・人件費の割合の高さを重視していない(利益がもっと出ると想定)
このような状態を改善できずにいると、赤字はどんどん悪化し、廃業に追い込まれる可能性が高くなります。
人員の配置や雇用形態が適切でない
先程紹介した経営状況の表では、黒字施設と赤字施設とで利用率に大きな差は見られません。ではなぜ、赤字となる施設が出てしまうのでしょうか。
その原因は、1人当たりの人件費の高さにあります。赤字施設は高い給与、多い人員配置によって、人件費が利益を圧迫していることが想像できます。
障害者グループホームの人員配置は、4対1なら利用者4名に常勤1名のみなど、適切な配置をすれば利益が出る構造になっています。しかし、利用者の区分に応じた正しい人員配置をしないと、一気に経営を圧迫してしまうのです。
他にも、正社員と扶養内パート社員を比較したとき、社会保険料の有無、深夜割増の金額が異なってきます。すると、実際の人件費では1.2~1.5倍ほどの差が出てくるため、雇用形態の使い分けなど適切な人件費管理が大切になってきます。
加算の取得・更新が十分にできていない
障害者グループホームの収益は、取得している加算からの報酬がほとんど。逆にいうと、算定可能な加算を取れていないと収益は見込めず、赤字経営になりやすいといえます。
また、加算は前年の結果を計算して変更届を出すことで、単価アップが可能。しかし、赤字経営のグループホームでは、加算を取得できたことに安心し、毎年の変更届がおろそかになりがちです。
施設設置の場所や建物に関して虚偽の報告をしている
本来、設備基準を満たしていない物件では障害者グループホームの開業はできません。しかし、申請時に虚偽の報告をしたり、基準を満たさないまま開業したりしたケースがあります。
たとえ開業者本人に悪意がない場合でも、誤りに気づけずに報告してしまえば虚偽となってしまいます。所定の手続きによって開業可能となることもありますが、大抵の場合は開業後に指定取り消しとなるため、注意が必要です。
不正請求をしている
開業後に指定取り消しとなる例としては、次のような不正請求が主となっています。
・スタッフが足りないのに、足りているように計算して加算申請している
・利用者がいないのに、いるかのような計算で加算を取得している
このような不正請求は、いずれ必ず明るみに出ます。虚偽の報告に労を割くのではなく、改善策の検討と実施に全力を注ぎましょう。
【知らないとまずい】グループホーム経営のここが大変
障害者グループホーム経営の大変さは、お金が関わってくるところだけではありません。人材や利用者の確保、信頼関係の構築も経営上の課題となることが多いです。
人材の採用と雇用の継続
障害者グループホーム経営の大変さは、人材採用と継続雇用にもあります。例えば、利用定員が4~5名の障害者グループホームを1棟運営する場合、次のような計算で必要人員が研鑽できます。
所定労働時間が44時間で、平日18時間・土日24時間のシフトを組む場合
18時間×5日+24時間×2日=138時間
フルタイム 138時間÷44時間=3.1人(小数点第2位を四捨五入)
20時間パート 138時間÷20時間=6.9人
つまり、この場合はフルタイムは「3人以上」、週20時間パートであれば「7人」は必要ということです。
また、予期せぬ退職も考えると、ある程度の規模を運営し続けるには、毎月スタッフ採用を続ける必要があります。弊社では採用支援サービスを展開していますので、「なかなか人材が集まらない」「継続的な採用活動が難しい」とお悩みの方は、ぜひご相談ください。
→【採用したい方へ】「人を採用したいが、採用活動をする時間がない」
スタッフを採用したあとの教育についてもしっかり準備が必要です。弊社では動画を見るだけで研修が完了するサービスを行っています!2024年4月より義務化の各種研修にも対応中!こちらも気になる方はお気軽にご相談ください。
利用者の確保と関係構築
障害者グループホームの需要はまだまだ高い状況にありますが、利用者を確保するためには相応の行動が必要です。
障害福祉サービス使っている方には「相談支援専門員」という、高齢者介護における「ケアマネジャー」のような存在がついています。基本的には、この相談支援専門員が障害者グループホームへ利用者を紹介してくれます。そして、紹介してもらえるようになるためには、地道な営業活動と信頼関係の構築が大切です。
また、グループホームのホームページでは、相談支援専門員だけでなく、支援者である養護学校の先生や家族、あるいは本人から問い合わせが来ることがあります。家族がインスタグラムを通してグループホームを知って、問い合わせから見学・体験を経て入居した例も。
そのため、利用者を確保するためには、ホームページ制作やSNSの活用も大切になってきます。弊社では集客のためのホームページ制作サービスも展開していますので、「集客に効果的なホームページを作りたい」という方は、ぜひご相談ください。
障害者グループホーム経営を成功させるには
障害者グループホームも事業の1つであるため、収益を求めることは悪いことではありません。しかし、お金を第一目的としては、前述のような落とし穴にはまってしまうでしょう。
障害者グループホーム経営を成功させるためには、事業目的をしっかり理解して行動することが大切です。
「世話人」という名前の職種があることで、「何でもやってあげる家政婦やお世話係」と勘違いする方も多いですが、障害者グループホームの目的は「自立支援」にあります。利用者自身が選択・決定し、行動する…その過程で1人では難しい部分を支援するのが自立支援です。
ビジネス感覚に加え、自立支援という考えをしっかり理解しておくことが、障害者グループホーム経営を成功に導く第一歩といえるでしょう。
では、実際に経営を成功させるためには、どのような改善策を講じれば良いのでしょうか。今度は、開業段階と経営段階での改善策を紹介します。
開業段階での改善策
開業段階での改善策に共通するのは、基礎的な部分をしっかりと押さえるということです。具体的には、次のようなことが挙げられるでしょう。
・障害者グループホームの現状を実際に視察・把握する
・開業の指定基準や法令などを正確に把握する
・実現可能な事業プランを立てる
・試算シミュレーションはリスクや実情を踏まえたものにする
・開業準備(人材採用、加算申請など)のスケジュールに余裕を持たせる
・できることから着手するのではなく、ゴールから逆算してタスク化する。
しかし、未経験者にはハードルが高い手続きが多いため、特に新規参入時には開業支援業者を利用したいところです。このとき、福祉業界の実績が十分にある開業支援業者を選ぶと、安心して相談することができるでしょう。
また、開業支援業者に依頼するときには、全てを業者に丸投げするのではなく、両業者が「二人三脚で取り組む」という姿勢が理想的です。
経営段階での改善策
経営段階での改善策に共通するキーワードは、「継続」と「適応」。職員や利用者の人数は常に変化しうる部分であるため、継続的な採用・営業活動による確保が大切になってきます。特に職員の採用においては、人件費を考慮した正社員・パート職員の使い分けが重要です。
また、一度取得した加算については年度が変わるごとに見直し、単価アップが見込める場合は変更届を出すようにしましょう。
さらに、他事業を同時展開できると収益の幅が広がるだけでなく、さまざまな人材を採用でき、必要に応じて配置転換も可能になります。
(障害者グループホームの物件と人材をそのまま活用できる事業(短期入所事業、自立生活援助事業)もあります。)
障害者グループホーム経営の成功例
今度は、実際に成功した障害者グループホーム経営の例を見ていきましょう。
A社
神奈川県藤沢市・鎌倉市で2棟オープン。実は、はじめは別の地域で開業予定でしたが、入念なマーケット調査により、現在の地域の方が穴場であることが判明しました。実際、2021年4月に開業後、5ヵ月で利用定員11名中9名確保。2021年12月に3棟目を開所し、2ヵ月で利用定員17名15名となっており、4~5棟目も準備中です。
B社
熊本市で開業し、1棟6名満床状態。開業者は食品輸入販売の創業者で福祉未経験。一軒家を購入・開業しました。元精神病院の看護師を採用していることで、精神地域移行のニーズにも強い障害者グループホームです。利用相談が相次ぎ、2棟目の賃貸物件を進め、3棟目は新築の準備をしています。