【福祉系企業が公開】障害者グループホーム経営で知っておきたいお金の話

2024.01.08 #経営について#運営準備#開業


近年、障害者数は増加傾向にあります。それにともなって、障害福祉サービスの予算も増加し、市場規模の拡大が顕著です。また、コロナ渦を経て安定した事業を求める声も多く、障害者グループホームの経営に注目が集まっています。

そこで今回は、障害者グループホームの運営方法収支シミュレーションを紹介します。実際に障害者グループホームを経営している弊社だからこそお答えできる、集客や採用などの実践的なノウハウもあわせて解説。

障害者グループホームの開業を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

障害者グループホームとは

障害者グループホームとは、障害のある方が共同生活を行う小規模の住居、いわば「シェアハウス」です。障害福祉サービスのひとつであり、障害者の生活を通念に渡ってサポートします。

障害者グループホームとはどういうところなのか、さらに詳しく知りたい方はこちらのコラムも参考にしてみてください。

【運営者向け】障害者グループホームとは?知っておきたい基礎知識

障害者グループホームは儲かる?儲からない?

結論から言うと、障害者グループホームが儲かるか否かは、収支シミュレーションの方法によって異なります。たしかに、障害者グループホームは収益性が高いビジネスモデルです。利用者が増えれば増えるほど、国からの給付金も多くなります。

しかし、それらは利用者やスタッフを十分に確保することが前提です。実際、収益性が高いからと安易に参入したことで、利用者やスタッフが確保できずに廃業するケースも少なくありません。収支シミュレーションにおいても、利用者数の見積もり方によって儲かる・儲からないは変わってくるでしょう。

また、障害者グループホームの損益分岐点は、経営スタイルによっても大きく異なります。自社の損益分岐点を把握するためにも、あらかじめ収支シミュレーションを入念に行うことが大切です。

障害者グループホームの運営方法

障害者グループホームで得られる給付金(報酬)は、運営方法によって種類や単価が異なります。具体的な運営方法は、次の4種類です。

介護サービス包括型

介護サービス包括型は、最もオーソドックスな運営方法です。比較的障害の程度が重い方を対象に、自社スタッフが食事や入浴などの日常生活動作を支援します。支援は夜間や休日がメインであり、利用者は日中、生活介護や就労継続支援などの通所先で過ごします。

基本サービス費は、最も高いもので「666単位」です(世話人の人員配置が4:1、かつ利用者の障害支援区分が6の場合)。

外部サービス利用型

外部サービス利用型は、外部ヘルパーが食事や入浴などの日常生活動作を支援する運営方法です。利用対象は比較的障害の程度が軽い方や、夜間や休日に介護が必要な方が多くなっています。

基本サービス費は、最も高いもので「244単位」です(世話人の人員配置が4:1の場合)。

日中サービス支援型

2018年に新設された日中サービス支援型は、24時間体制で利用者支援を行う運営方法です。日常生活上の支援や相談など幅広いサービスを提供し、短期入所施設を併設する事業所も少なくありません。

基本サービス費は、最も高いもので「1,104単位」です(世話人の人員配置が3:1、かつ利用者の障害支援区分が6の場合)。

サテライト型

サテライト型は、1人暮らしの練習を手助けする運営方法です。上記3つのいずれかの本体住居に付随する形で、アパートなどの一室を利用します。なお、報酬単価や種類は、本体住居と同じものが適用されます。

介護サービス包括型の収支シミュレーション

では実際に、障害者グループホームを運営するとどれくらいの収益が出るのか、介護サービス包括型を例に紹介します。なお、他のサービス類型も、収支シミュレーションの考え方や計算方法は同じです。

また、下記に登場するシートは、弊社が実際に使用している収支シミュレーションシートとなっています。PL(損益計算)とCF(キャッシュフロー)の両面を試算できるため、より現実的な経営分析が可能です。

利益に関わってくる要素

障害者グループホームの利益は、国から支払われる報酬から、人件費などの費用を差し引くことで算出されます。

国からの報酬

報酬の計算方法は、次のとおりです。

報酬=単位数(基本サービス費+加算)×地域区分×利用日数

基本サービス費や各種加算の単位数は、厚生労働省の「障害福祉算定構造(令和3年度)」を参考にしてみてください。ちなみに、加算の種類は20~30個ほどありますが、あまり売上に貢献しなかったり、算定が大変だったりするものがほとんどです。

また、本来の順序は「加算がある→取ろう」ではなく、「この利用者さんの支援は何が必要か→この加算で対応しよう」です。加算ありきではなく、支援ありきで考えていく必要があると考えています。

そのため、開業直後は「基本サービス費」「夜間支援等体制加算」の2つを最低限押さえておくとよいでしょう。

また、地域区分は各地域の人件費や家賃を踏まえて、公平に報酬を支払えるように設けられた調整費用です。1級地から7級地までの7種類があり、それぞれ10円前後の単価となっています。

さらに、利用者の中には、土日や年末年始に外泊する方がいます。そのため、月の利用日数は実態とのズレを生じないよう、「28日」や「29日」で計算しましょう。

当社が独自に作成した収支シミュレーターの例です。

人件費

上記の例では、サービス管理責任者の給料を「30万円」、世話人の時給を「1,000円」として計算しています。都会や地方の差、処遇改善加算の有無にもよって金額は異なりますので、あくまでも参考としてご覧ください。

また、法人が支払う法定福利費を「15%」、交通費などの各種手当を「2%」ほど上乗せします。このように、人件費のシミュレーション時には、スタッフの勤務形態週の勤務時間数などを踏まえながら細かく見ていくことが大切です。

収支シミュレーションの例(PL:損益計算)

では、弊社が使用している計算シートをもとに、損益計算のシミュレーションをしてみましょう。なお、利用者は障害支援区分1〜4の方を想定して計算しています。

地域区分

障害者グループホームのある地域を5級地とすると、地域区分の単価は「10.8円」です。

基本サービス費と夜間支援等体制加算

こちらは、シミュレーションの条件をまとめたシートです。夜間支援等体制加算は区分によって単価が異なりますが、簡単に計算できるよう区分を3に固定しています。

この状態で1か月目に区分2の方が1人入所すると、売り上げは「16万円」となります。その後、順調に利用者さんが増え、最終的に「区分2が2人」「区分3が2人」「区分4が1人」になったときの売上や経費はシートのとおりです。

人件費

次に、基本条件の下にあるサビ管の「週の勤務時間」を見ていきましょう。実は、サビ管は特定事業所として届出することで、週の勤務時間を「40時間」から「44時間」に延長できます。その上、世話人業務にも何時間か入ることで、世話人の人件費を浮かせることも可能です。

たとえば、サビ管の勤務時間が「44時間」であり、支払う給料が30万円とした場合です。まったく世話人業務に入らないと、利用者が5人入っていたとしても営業利益はマイナスのままです。

しかし、「34時間」をサビ管として、「10時間」を世話人として勤務したとしましょう。すると、5か月目には営業利益が「プラス10万円」となります。なお、人件費の詳しい考え方は、下図の通りです。

家賃や水光熱費、食費など

これらは基本的に出入りする額がほぼ一緒、あるいは若干のマイナスとなります。この点はCF上で考えておけばいいところであり、PL上はさほど重要ではありません。なぜなら、家賃や水光熱費などでプラスの差額が生じてしまうと、国から返金命令が下されるからです。

実際、利用者から日用品費を回収しすぎたために、監査によって全額返還するよう指導された例があります。

その他

意外と忘れがちなのは、フランチャイズに加盟している場合に支払う報酬や、コンサルの支援料などです。事業所サイトの制作や広告運用など、何かと広告系の費用も発生します。

また、近年ではインターネット環境の整備も大切です。利用者さんもスマホを持っている方が多い上、スタッフも仕事をする上でWi-Fiが必要となります。

さらに、必ず入った方がいい「賠償責任保険」や「火災保険」などの保険料もシミュレーションに含めましょう。

最終的な利益

以上をすべて入力すると、1棟目のPLが自動計算されます。最もシンプルでわかりやすいのは、1棟目でサビ管の人件費を吸収して、2棟目で利益を出すという形です。2棟目にはサビ管の人件費がかからないと考えると、比較的利益は出やすいでしょう。

最終的な利益は、「営業利益率22.9%」「営業利益43万」です。実際に弊社のグループホームの数字を全て入れると、実際の帳簿とシートの数字がほぼ同じようになります。

収支シミュレーションの例(CF:キャッシュフロー)

次に、CF上のシミュレーション例を見ていきましょう。

初期費用

CFをシミュレーションするときには、まず初期投資の項目を入力していきます。以下は、介護サービス包括型の初期投資例です。

  • コンサル 200万
  • ウェブ制作 30万
  • 労務(社労士依頼) 30万
  • 物件取得 50万
  • 改装費 50万
  • 備品設備 30万円
  • 消防設備 10万円
  • 法人設立 20万 など

すると、CF条件に「初期投資430万円」が反映されます。

手元キャッシュで500万円、借り入れ500万円で開業する場合

では、合計1,000万円のキャッシュでCFをシミュレーションしていきましょう。初期投資は430万円のため、初月の差し引き後キャッシュは約500万円となります。そこから人件費などが引かれていきますが、報酬の入金は約2か月後です。そのため、キャッシュフロー上の収支がプラスになるのは、実は6〜7カ月目ころからだとわかります。

つまり、1〜5か月目は常にキャッシュが出ていく状態です。しかし、差し引き後キャッシュの底打ちは66万であり、そこから徐々に上がっていきます。「手元キャッシュ500万円」「借入500万円」の合計「1,000万円」があれば、賃貸で2棟開業する場合は十分利益を得られるでしょう。

もちろん、この数字は手元キャッシュや初期投資の額、利用者確保の進み具合にもよって変わってきます。たとえば、手元キャッシュが300万円、借入が500万円となると、下図のとおり大赤字になってしまうため注意しましょう。

障害者グループホーム経営で大切なこと〜失敗しないために〜

障害者グループホームは、経営次第では収益性が高い事業であると紹介しました。しかし、目先の利益ばかり追い求めていては、福祉事業として本末転倒です。

そこで、障害者グループホーム経営を成功するために必要な考え方や、押さえておきたいポイントを紹介します。

最優先すべき収益ではなく利用者

利用者がいなければ、当然利益は出ません。利用し続けてもらえなければ、安定的な経営も難しくなります。

では、利用者確保と利用継続を実現するために必要なのは、どんなことでしょうか。それぞれ詳しく見ていきましょう。

利用者を確保するには?

利用者を確保するためには、対面・ネット双方における積極的な営業活動が必要です。近年では、利用者やその家族もスマホを利用する方が多くなっています。事業所のサイトやSNSから、直接問い合わせが届くほどです。

これからの時代、利用者のスマホ利用率はさらに増加し、ネット上での情報発信が利用者確保の鍵を握ると言っても過言ではありません。なお、弊社では、利用者確保に最適なウェブサイト制作サービスも展開しています。

事業所サイトの作り方がよくわからない、効果的なサイト作りを依頼したいという方は、ぜひお気軽にご相談ください。

→福祉業界に特化した格安のホームページ制作

利用者との関係構築

障害者グループホームを利用し続けてもらうためには、質の高いサービス提供が大切になってきます。もっと言えば、「本人が過ごしやすい環境」を提供するということです。これは、わがままの言い放題という意味ではありません。

障害者グループホームにおける「過ごしやすい環境」とは、利用者それぞれの障害特性に合った支援が行われることです。個々に合った支援を丁寧に行うことで、利用者との信頼関係が生まれ、自然と利用継続につながっていくでしょう。つまり、利用継続には、質の高いスタッフの力が不可欠なのです。

スタッフを確保するには?〜採用ハードルは意外と高い〜

世話人や生活支援員といったスタッフは、利用者数に応じた人員配置基準が定められています。しかし、人員が足りなくなってから採用していては、新人教育の負担が大きくなり、さらなる退職を招きかねません。

また、「誰でもいいから採用する」というスタンスでは、トラブルを起こしやすい資質のスタッフを採用する恐れもあります。スタッフ全体の質も下がると事業所の評判も悪くなり、利用者確保にも悪影響を及ぼすでしょう。

このような事態を避けるためには、人員に余裕がある段階で丁寧に採用活動を進める必要があります。とはいえ、通常業務と並行して採用活動を進めるのは、非常に大変です。

弊社では、人材採用をお手伝いするサービスも行っております。人材採用や継続雇用についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

→【採用したい方へ】「人を採用したいが、採用活動をする時間がない」

スタッフを採用したあとの教育についてもしっかり準備が必要です。弊社では動画を見るだけで研修が完了するサービスを行っています!2024年4月より義務化の各種研修にも対応中!こちらも気になる方はお気軽にご相談ください。

→障がい者グループホーム向け「スタッフ研修動画」について

プロが公開する障害者グループホームの経営ノウハウまとめ

最後に、障害者グループホームの経営における実践的なノウハウについて、簡単に紹介します。

管理のあれこれ

障害者グループホームで必要な管理業務としては、おもに次のようなものが挙げられます。非常に多いため、管理者とサビ管とであらかじめ役割分担するとよいでしょう。

利用者対応 支援会議への参加、通院介助、緊急連絡、緊急対応

見学対応、体験対応、本入居対応

モニタリング、個別支援計画の作成など

関係機関との連絡調整 モニタリング対応、金銭関係の確認

利用者トラブル対応、利用者の更新月の聞き取りなど

事務作業 稼働表の作成、見学・体験利用状況の整理、小口現金管理

社内報告、国保連請求、個人請求、過誤・返戻対応

社内売上管理、社内入金管理

処遇改善加算の届出、報告

申請届出関係(夜間支援対象利用者の届出など)

勤務体制表の作成、提出など

人材確保 人員計画の立案、求人作成、応募対応、見学・面接対応

雇用契約等の対応、雇用保険・社会保険等の加入手続き

給与計算、支払いなど

スタッフ管理 シフト作成、新規スタッフの現場指導、スタッフ面談等のケア

緊急連絡、職員会議など

営業 チラシ作成、営業先リストアップ、営業回りなど
施設 施設点検、修繕業者対応、消防設備点検

避難訓練対応、物品購入

自治会・町内会等の参加、近隣トラブル対応など

緊急時の対応〜こんなときどうする〜

障害者グループホームで起こりうる緊急事態としては、行方不明や夜間の体調不良、自傷行為による流血などが挙げられます。

しかし、これらは入居してはじめて起きるものではありません。自宅や以前いた別の障害者グループホームでも、同様の事態が発生していることがほとんどです。そのため、支援会議などで事前に情報共有すれば、ある程度予測が可能となります。

また、緊急事態が発生した場合にそなえ、連絡先や対応の流れなどをあらかじめ決めておくとよいでしょう。基本的に行方不明なら警察、体調不良なら救急車を躊躇なく呼びます。ただし、対応に悩む事案も起こり得ます。そのようなとき、誰に判断をあおぐかも決めておくことが大切です。

たとえば、弊社の障害者グループホームでは、管理者などが24時間いつでも連絡を取れるように、「緊急連絡先」というシフトを組んでいます。これにより、スタッフは「何かあったときには、この人に相談すればいいんだ」という安心感を持って働けます。

利用者さんが安心して暮らせる、そしてスタッフが安心して働ける環境作りのためにも、事前にリスクや対応方法を想定しておくことが大切です。

グループホームの経営に資格は必要?

障害者グループホームの経営に資格は必要ありません。ただし、経営を成功させるためには、福祉や経営について積極的に学ぶ姿勢が大切になってきます。

また、サビ管は一定の実務経験と所定の研修修了が必要です。実務経験は保有している資格によって異なり、最短で1年以上、最長で8年以上となっています。配置後に必要な5年ごとの更新研修も、忘れずに受講するようにしましょう。

利用したいグループホームの経営支援サービス

「障害者グループホームは収益性が高い」とはいうものの、実際に経営を成功させるためには相応の戦略と実行力が必要です。とくに、「経営や人を雇うのは、はじめて」という方にとっては、非常にハードルが高いでしょう。

弊社では開業支援をはじめ、採用支援サイト制作などのサービスを展開しています。障害者グループホームを開業したい、経営を安定化させたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。